がん…放置してよいわけではない

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自分や家族がガンになると、大抵の人はインターネットを見たり本を読んだりして、どんな治療があるかを懸命に探します。どころが、医師が書いたものであっても意見はさまざまで、読めば読むほど混乱することが少なくありません。

中には「がんは治療せず放置すべきだ」と主張する医師もいます。これは、」ガンには発生した直後から転移するタイプとずっと転移しないタイプがあるという考えに基づいています。前者は早期発見してもすでに転移しているから治療しても無駄。後者は転移する能力を持っていないため放っておいても大丈夫。従って、検診による早期発見も治療も無駄ということになります。

ですが、がんといえど生き物です。最初から「転移するがん」と「転移しないがん」とにデジタルに分かれていて、ずっと変わらないとは考えにくいのです。生物はアナログで、時間がたつにつれて徐々に変わっていくのが普通です。

ほとんどのがんは、見つかってから時間がたつほど、転移する割合が増えていきます。その理由について、がん研究者らは2つの可能性を考えています。

一つはがん細胞が分裂を繰り返すうちに遺伝子に異変が積み重なり、転移する能力を獲得するとの見方です。時間が長いほど、転移にかかわる遺伝子に変異が起きる確率は高くなる訳です。

もう一つは、がんはもともと転移の能力があるが、大半は血液に乗って移動するうちに死んでしまうという見方です。ただ時間がたつほど多くのがん細胞が血中に入るので、どれかが成功する確率が上がっていきます。

確かに小さな甲状腺がんなどは、放置しても大きさが変わらなかったり、消えてしまったりすることがよくあります。そういうがんは急いで治療するより、しばらく経過を見るほうがよいのです。乳がんや前立腺がんの中にも、同じタイプのものがあります。

また肺の小細胞がんのように、診断した時点で転移してしまっているケースがほとんどというがんもあります。

だからといって、すべてのがんを放置していいわけではないと、医師の大半は考えています。

2017年1月26日(土)日本経済新聞(夕刊)記事より